ホワイトデーです、おのおのがた
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


さて、先週の卒業式では
とんだ大活躍なんだか、お騒がせなんだか、
世間様には こっそりと、いつもの武勇伝を繰り広げたらしい、
その行動力が留まるところを知らない、相変わらずの三人娘。
今現在は春休みに入っておいでで、
原則、学校に登校しなくていい毎日を送っておいで。
とはいえ、剣道部の白百合様は部活があるらしく、
何でも、中等部から持ち上がりの入部予定者らが、
早くもお稽古に参加するとかで、その様子を見てやらねばならぬとか。
あとのお二人はといえば、
ひなげし様は相変わらずの幽霊部員だし、
紅ばら様も、コーラス部は入学式前に斉唱の練習日がある程度。
なので、朝はのんびりと過ごしていても文句は言われぬ。
特に、やや低血圧の気があるらしい、三木さんチの久蔵さんは、
どんどんと陽の出が早まる今時分、
窓の外がすっかりと明るくなっても
なかなかベッドから出られない…かと思いきや。

 「……っ。」

うつ伏せになったそのまま半分抱えていた枕の下へ入れていた
スマホの振動でぱちりと目を覚ますと、
まだ半分開き切らぬまま、それでも身を起こして
まずは…子供座りで小休止。
ふわふかな金の綿毛を片手でもしゃりと掻き回し、
ふわわとそれは大きく口を開いての大あくびをすると。
白い両手を持ち上げて、自分の頬をパチンと一打ち。
そのまま床へと撓やかな御々脚降ろし、
やっとこ起き出して、着替えに入る。
適当なシャツに適当なスキニーを合わせ、
どこかの銀行の制服を思わすような、
ややお定まりなジャンパースカート風の、
フリース地のチュニックをかぶり着てから。
部屋から出ると、まずは顔を洗いに洗面所へ寄り、
そのまま食堂へ向かえば、

 「あら、今日は早起きさんなのね。」

先に食事を始めていた両親が、おやまあとお顔を向けて来る。
そちら様がたは、
年度の切り替わりというこんな時期でも大忙しの身。
名だたるホテルであることを信頼して、
はたまた 最高のおもてなしを期待して、
卒業旅行や春休みにご利用の若い世代から、
様々な会合や企画の会場にとご利用の企業様がたまでと、
引きも切らぬご贔屓をいただいている以上、
支配人も経営トップもその身を投じて頑張っておいでで。
ただ、

 「…そうだ、久蔵。」

長いテーブルの上座、
向かい合う両親のすぐお隣へついたお嬢様なのへ、
給仕役の皆様がそれは手際よく動く中。
当家の主人である父上様が、
すいと手を上げ、家令殿へと合図を送れば、
慎み深く一礼したおじさまが、一旦廊下へ出てゆき、
ほんの一呼吸おいて戻って来ると、
それは見事な花束を運んでいらっしゃる。

 「先月は美味しいチョコレートをもらったからな。」
 「〜〜〜〜。//////////」

ありゃと頬を染めたお嬢様へ、
居合わせた家人の皆様もそれは微笑ましいというお顔をし、
赤子ほどもある大きな花束を父上からいただいたお嬢様、

 「?」

お花の間に挟まれたカードに気づくと、
やや行儀が悪かったが、パクリとお口で引っ張り出せば、(おいおい)

 「…っ♪」

ホテルJと提携している某テーマパークの、
貸し切り招待状ではありませんか。

 「何人でもお誘いするといいぞ?」
 「………vv」

うんうんと嬉しそうに頷いた紅ばら様、
大親友二人は言うに及ばず、
妹分の一子さんに双葉さんに、それから一ノ瀬さんと、
あとは えっと、ガールズバンドの4人娘と。
しょうがないから
弓野さんチのヨシチカ坊っちゃんも呼んでやるかと、
ご家族には にまにま嬉しそうに微笑っておいでなのが、
ようよう判るお顔になったまま、
ここからはお行儀よく、朝ご飯を召し上がるのであった。




     ◇◇◇



何か軽快な曲を聴いているものか、
ヘッドフォンをしたまま小刻みに動く
小さな頭や まろやかな肩なのが、
ただ向かい合っていて…最初は怪訝だったが、
見慣れて来ると何とも可愛らしいものだから。

 “眺めていると気づかれぬようにせんとなぁ。”

気恥ずかしいと止めてしまわれてはつまらない。
手際にも影響は出ていないのだしと、
気づかぬ振りで通しかけた五郎兵衛殿だったが、

 「…あ。」
 「おっと。」

ホワイトデー用の特製クッキーの詰め合わせ、
可愛らしいパッケージへ次々詰めてた作業中。
手元に重ねてあった台紙が尽きたと延ばした手が重なってしまって、
あっと見上げたお顔同士。
笑いをこらえてますというよな、そんな素振りや態度は取ってなかったが、
それでもまあ我に返れば、そこは反射のいい世代、
ついさっきまでの自分の態度を思い起こしてか、
カアッと真っ赤になるのがまた可愛い。

 「あ、や、あのっ。/////////
  不真面目に片手間になってたわけじゃなくってですねっ。」

 「うむ。久蔵殿からの連絡を待っておるのだろう?」

甘味処として知る人ぞ知る有名な店なので、
こういう日だもの、予約も多く入っていたクッキーを、
昨夜からせっせと詰めているお二人。
あとちょっとというところまで辿り着いてはいたのでと、
ちょっと余裕を見てのこと、
お友達からの連絡に速攻で出られるよう、
スマホを持って来たそのまま、
ついつい気に入りの音楽を聴き始めてしまった平八で。

 「遊びに行くなら、その前に。」

作業台の下、
ボウルやザルを仕舞っているところへ手を入れた五郎兵衛さんが、
その大きな手で取り出したのは、
ちょっとした豪華版の上製本くらいの厚さ大きさの包みであり。

 「???」
 「ヘイさんが喜びそうなものというのはいつも難しいので、
  知り合いからちょっとヒントをいただいたのだが。」

それとこっちはチョコレートのお返しと、
小さな野菊を髪へ差してもらったのへ、
かあっと真っ赤になってその場へへたり込んだのは、
他の親友さんたちへは内緒の秘密。
言ったところで、

 『だって、ゴロさんの手って、
  凄い頼もしくて暖かいんだもん。////////』

 『ああはいはい、判ったからvv』

お惚気扱いされるだけだしぃ〜vvと、気もそぞろになったままお部屋へ戻り、
貰った贈り物を開いてまたぞろ
“きゃ〜〜〜〜っvvvv”と嬉しい悲鳴を上げたお嬢さんだったが、

 “何であんな、ずんと古い喫茶店からもらって回った、
  テーブルゲーム機の基盤とやらが嬉しいのだろか。”

アクセサリーやドレスとか化粧品とか言われても、
やっぱりよく判らなかっただろうけれど、と。
苦笑が止まらぬ五郎兵衛さんだったそうな。




     ◇◇◇



 「で。肝心な榊せんせえからは連絡あったんですか?」
 「……。/////////」

頷くということはあったんだなと、
今日は通訳がいない寡黙なお友達の意を何とか突き止め、
それはよかったと微笑って差し上げ、

 「さて。それじゃあ残る問題は、あのおじさまですよね。」
 「…。(頷)」

今日はちょっぴり冷え込む1日となるだろとは、
気象庁の共通の見解。
ラブラブな相思相愛カップルには、
そんなもの全く関係なかろうが。

 「非番のはずなのに、何を呼び出されてますかね。」

官舎から昼下がりという時間帯に出て来た壮年殿。
しわだらけのコートによれたネクタイを結びつつ、
髪ももさもさのまま駐車場へ出て来た様は、
どう見ても“これから七郎次と待ち合わせ”というよな
浮いたいで立ちではなくて。
そんな彼が乗り込んだセダンを、やや遅れて追うのは、
坂道でも楽チンとの評判で有名な、
電動自転車というのにまたがった、それは愛らしい美少女二人。

 【 …○○区のコンビニで、店員を盾に立て籠もっている男が出たようで。】
 【 判った、今向かう。】

判ったじゃないでしょうが、
そんなの所轄の署に任せて大丈夫なレベルですよと歯咬みしつつ。
スマホにパパパッと最短ルートを割り出させ、
実は特別誂えなんですという、
8段変速器つきの自転車の特製モーターを稼働させると、

 「行きますよ、久蔵殿っ!」
 「…っ。」

おおという同意の勝ちどきもどきをその見交わした眼差しに読み取って、
完全最新版なデータを駆使すると、
路地裏や細道を駆使し、何より健脚も活用して先回りを敢行した二人であり。
やや騒ぎが大きくなり掛かっていたコンビニの裏手へ周り込むと、
斜めに滑り込ますように自転車を急停車させたそのまま、
どこの鉄人レースですかというノリで今度は自前の足で駆け出し、

 「久蔵殿っ。」
 「…っ。(頷)」

まずはと平八が、
片方の腕を楯のように顔の前へかざしつつ、
ちょこっと手前で停止せんと
スニーカに無理をさせてのブレーキを掛けながら、
駆けつけかけた店の裏手のドアを狙って、
スタンガンに似た機器を手に、上から下へと ぶんっと振れば。
そこから放たれた放電が稲妻のように宙を飛び、
襲い掛かられたシャッターが大きく震えてぱんっとはぜる。
それで一気に大きな開放部が出来たため、
そこへとすかさず、

 「……っ。」

ウエストカットのジャケットに、
ミニスカートに見えなくもないチュニック、
そこへスキニーを重ねた機能的な恰好の紅ばら様。
ついでに言えば、二の腕や肩にはサポータ型の、
胸元と背中へはビブス型の、防弾性の高い防具を装着した上で。
こちらもスニーカという足元へ、ぐんと膝を深々折ってバネを溜め、
両手のそれぞれへシャコンと振り出した警棒を、翼のように構えると。
何が待つやら、一応は平八から説明された店内へ、
閃光のように目にも止まらぬ素早さで
細い肩から果敢にも飛び込んでゆき。
店内に出るには2回ほど曲がるという指示どおり、
よって3歩だけというステップを確実に踏んでから、
先程のどがんという大音響に棒立ちになって呆然としていた刃物男を、
天誅っと勢いよく薙ぎ払って倒したのに掛かったのが…
正味2分もあったかどうか。
もしかして、刃物男の乱入以上におっかない突入だったかも知れぬ
いわゆる“神業”を目の当たりにしたこととなったせいだろう、

 「いいですか?
  私ら、裏手で起きたガス爆発だか漏電だかにビックリして
  飛び込んで来ただけですから。」

後から続いた平八が、やっぱり呆然としていた店員さんへ、
人差し指を立て立て説明しておれば。
やっと態勢が整ったらしい所轄署の人からだろう、
店内のカウンターの電話がプルルルルンと鳴り出したものだから、

 「いっせぇのせ、きゃぁあ〜〜〜っ。」
 「きゃぁあ〜〜〜〜。」(ちょっと低音の棒読み)

愛らしいお嬢様二人、
伸びちゃった犯人を足元に、白々しくも悲鳴を上げ、
警察の方々をすわと焦らせて、一勢突入を促したのでありました。




     ◇◇◇



彼女らの生活圏内では到底ありえぬ場所のコンビニで、
しかもこんなややこしい騒動勃発中に居合わせたなんて。
これがまだ少々青い世代の関係者なら、(ex,京都在住の菊千代さんとか)
どんな奇遇か訊いてやるから言ってみなと、
裏の事情が何とはなく透かし見えるからこそ、
頭痛がしそうなお顔で言い立てたところだろうが。

 「…なんでお主らが居る。」

一応はそうと口を衝いて出たものの、
いや、言わなくてもいいということか、
ふうと溜息をついたのだろう、頼もしい肩をやや落とし、
来い来いと大きな手で招く仕草をして見せた、壮年警部補殿。
保護された身だからか、毛布にくるまっていたそのまま、
互いに顔を見合わせる呼吸を挟んでから、呼ばれたまんま寄ってけば、

 「お主らが案じずとも、七郎次と会う約定は立てておるし、
  このくらいの騒動に引き留められる儂ではないわ。」

相手が忙しくてやや微妙なカップルなのが心配なのでと、
こんなお節介(?!)を焼いた彼女らだってところもお見通し。
そのくらいはあっさり読めた辣腕警部補殿だったようであり、

 「それよりも。
  万が一にもお主らが怪我でもしておれば、
  七郎次に何と言い訳したのだ。」

 「う…。」
 「〜〜〜。」

無事だったのは結果論、
どんな“もしも”が起きるかは、起きてみないと判らないのが現実。
そんな道理もようよう知ってはいる彼女らなだけに、
もしも久蔵の得物が引っ掛かって出なかったら、
もしも平八の構えた飛び道具が逆流して火傷でも負っていたら、
そういうもしもだって起こり得るとは理解出来るから。

 「…案じてくれるなんて気持ち悪いです。////////」
 「シチだけにしろ。」

 「おや。」

たちまち決まり悪いというお顔になるのはまま可愛い。
なので、

 「では、儂からの説教は無しだ。
  その代わり、向こうの引き取り人から千度叱られよ。」

ひょいとお髭のあごをしゃくった彼につられ、
肩越しに後方を振り向けば、

 「あ…。///////」
 「あちゃ。/////」

五郎兵衛や兵庫ではなくの、

 「ヘイさんっ、久蔵殿っ

これって一体どういうことですかっと、
間違いなく“鬼百合モード”の七郎次お嬢様が、
束ねた金の髪がそこから立ち上がりそうな怒髪天の状態で、
こちらを見据えておいでだったのでありました。


   おそまつっvv




    〜Fine〜  14.03.14.


  *おかしいなあ、
   もうちょっと段取りのいい
   大暴れ話になるはずだったんですが。(こらこら)
   ホワイトデーでも、そして2人しか居なくとも、
   何かしら問題を起こすお嬢様たちで。
   とうとう自主的に繰り出して来ましたよ。
   勘兵衛さんもさすがに頭が痛かったらしいですが、
   シチさんが居れば こういうことはないんじゃなかろかと…。
   が、頑張れ、大人たちっ。

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